ネアンデルタール人が4万年前に制作したアート作品を発見! 顔料からは成人男性の「完全な指紋」も
スペイン中部のサン・ラサロ遺跡の調査で見つかった石を調べたところ、それがおよそ4万年前にネアンデルタール人が作った芸術作品と判明。使用された顔料からは成人男性と見られる完全な指紋が検出された。

マドリードのコンプルテンセ大学の考古学者たちは2022年、およそ4万年前にネアンデルタール人の住居だったとされるスペイン中部のサン・ラサロ遺跡の調査で、通常この遺跡で発見されるムステリアン尖頭器と呼ばれる三角形の打製石器とは全く異なる石を見つけた。
アートネットが伝えるところによると、石は全長20センチの花崗岩で、もともと細長く人間の顔に似たくぼみを持った石の鼻部分に赤い点が押されていた。道具として使用された痕跡が見つからなかったため芸術作品なのではないかと考えた研究者たちは、まず赤い点について調べることにした。走査電子顕微鏡を使って分析したところ、この点は酸化鉄と粘土鉱物を含む土質のオーカー顔料であることが判明した。オーカーは洞窟の他の場所では発見されておらず、意図的な行為によって印が石に付けられたことが分かった。
そして、多スペクトル分析で得られた赤い点の画像をスペイン国家警察の鑑識部門に送り、点の隆線を測定・計数してもらったところ、成人男性と思われる指紋がくっきりと浮かび上がった。これまで発見された中でも最古かつ最も完全なネアンデルタール人の指紋となる。1960年代にドイツ中東部のケーニヒスアウエで樺の樹脂片から部分的な指紋が見つかって以来の発見だ。

さらに考古学者たちは、原料の花崗岩はサン・ラサロ遺跡にあったものではなく、遺跡から約5キロ離れたエレスマ川の川床に由来することをつきとめた。これにより、ネアンデルタール人が意図的に洞窟に石を運んだことが明らかになった。現在世界最古の顔料を使用した芸術品は5万1000年以上前に描かれたインドネシアの洞窟絵画であり、それに次ぐ貴重な発見となる。
人類の祖先として知られるネアンデルタール人は、ユーラシア大陸で40万年前から4万年前にかけて生き、その後絶滅した。今回の調査について、コンプルテンセ大学の研究チームは5月24日に『考古学・人類学科学』誌に発表した論文で次のように結論付けた。
「石がその外観によって選ばれ、その後オーカーで印を付けられたという事実は、ネアンデルタール人には物体に対して象徴化し、想像し、理想化し、自分の思考を投影することができる人間の心があったことを示しています」
「さらにこの場合、芸術創造には3つの基本的な認知プロセスが関与していると提案できます。すなわち、イメージの構想、意図的なコミュニケーション、意味の付与です。これらは有史時代以前の非具象芸術を特徴づける基本要素です。そして、この石は先史時代の記録において人間の顔を抽象化した最古の例である可能性があります」