トランプ関税の影響か。著名コレクターの資産が約6800億円も消失、英紙の最新長者番付が発表
イギリスの週刊紙サンデー・タイムズが発表した長者番付「Rich List」によれば、テート・モダンの大口支援者として知られるレン・ブラバトニクの純資産が1年で約6800億円減少したという。資産減少の背景には、トランプ政権の関税措置による市場混乱があるとみられる。

イギリスの週刊新聞、サンデー・タイムズ紙が年に一度発表している長者番付「Rich List」によれば、TOP 200 COLLECTORSに名を連ねるアートコレクターのレン・ブラバトニクの純資産がこの1年で35億ポンド(約6760億円)以上減少したことが明らかになった。
イギリスに拠点を置く富豪を対象としたこの年間ランキングによれば、ブラバトニクの純資産は257億2500万ポンド(約4兆9678億円)まで減少し、順位も1位から3位に後退した。ウクライナ出身の実業家である彼は、旧ソ連崩壊時に民営化が進んでいたアルミニウムとエネルギー企業へ早期投資したことで財を成した。また、ロシアの石油会社TNK-BPの株式を70億ドル(約1兆111億円)で売却したこと、そして2011年にワーナー・ミュージックを33億ドル(現在の為替で約4766億円)で買収したことで、資産を拡大している。
美術界への支援も行っているブラバトニクは、2017年にテート・モダンの施設拡張に5000万ポンド(現在の為替で約95億5500万円)を寄付しており、同館は謝意を表して施設の名前を「ブラバトニク・ビルディング」に改名。このほかにも、ロンドンのコートルード美術研究所が運営するギャラリーや教育施設、そしてソーシャルスペースに自身の財団を通じて1000万ポンド(約19億3126万円)を寄付した。
ブルームバーグのビリオネア指数によると、ブラバトニクは今年、20億ドル(約2888億円)超の資産を失い、純資産が372億ドル(約5兆3717億円)に減少したという。
連邦選挙委員会(FEC)のデータによれば、ブラバトニクは2024年の選挙向けに共和党とその候補者、および同政党の政治資金の受け皿となる特別政治活動委員会(Super Political Action Committee=スーパーPAC)に29万3588ドル(現在の為替で約4240万円)を寄付しており、そのうち7万9700ドルは全国共和党下院委員会に割り当てられた。また、同期間中に民主党とその候補者、そしてスーパーPACには8万2700ドル(同約1200万円)を寄付している。
サンデー・タイムズが発表した今年のRich Listには、2024年のTOP 200 COLLECTORSに選出された蒐集家が10人以上含まれている。いくつか例を挙げると、工業デザイナーで実業家のジェームズ・ダイソン(208億ポンド[約4兆170億円]、4位)、実業家のイダン・オファー(201億2100万ポンド[約3兆8874億円]、5位)、オルガリヒのヴィアチェスラフ・モシェ・カントール(76億6100万ポンド[約1兆4800億円]、24位)、ヘッジファンドマネージャーのアラン・ハワード(25億ポンド[約4830億円]、71位)、そして実業家で元アラブ首長国連邦駐英大使のモハメッド・マディ・アル・タジル(16億4300万ポンド[約3173億円]、103位)が名を連ねていた。
5位にランクインしたオファーは、51億6100万ポンド(約9972億円)の資産が増加したことから、過去1年間で資産が増加した上位5人に入った。
これ以外にも、投資家のサイモン・ルーベン、海運業を営む実業家、ジョン・フレドリクセン、TOP 200 COLLECTORSのアーティ・ロヒアの夫であるスリ・プラカシュ・ロヒア、世界最大の鉄鋼メーカー、ミッタル・スチールのCEO、ラクシュミー・ミッタル、ミュージシャンのエルトン・ジョン、そして元クリスティーズの株主で投資家のジョー・ルイスも名を連ねている。
鉄鋼王のミッタルは2012年にアセロール・ミッタル・オービットの建設費用として1920万ポンド(現在の為替で約37億円)寄付している(総建設費は2270万ポンド[同約44億円])。高さ115メートルに及ぶこの展望塔は、アニッシュ・カプーアとセシル・バルモンドによって設計され、一時期は彫刻作品としてイギリスいちの高さを誇っていたが、2015年には滑り台に改装されている。また、ミッタル・ファミリーの名を冠したハーバード大学の南アジア研究所では、アーティストのフェローシップや展覧会を主催したり、作品の保存プログラムを運営している。
フレドリクセンはかつてTOP 200 COLLECTORSに名を連ねていたが、2024年2月のクリスティーズのオークションで、コレクションの大半を2050万ドル(現在の為替で約29億6000万円)で売却した。ルイスも同様にTOP 200 COLLECTORSに選出されていたが、2024年に共謀とインサイダー取引の罪を認めた結果、アメリカの裁判所から500万ドル(同約7億2200万円)の罰金と3年間の保護観察処分を命じられている。
今回のRich Listの最低基準額は3億5000万ポンド(約676億円)と前年と変わらず、景気後退の兆候を示す指標となっている。長者番付を発表した際に同紙は次のように今年のランキングを総括している。
「2025年版はドナルド・トランプ大統領の関税措置と、それに伴う株式市場の混乱により、編纂が最も困難な年の一つだった。Rich List史上、イギリスに拠点を置く億万長者の数が最も減少した年でもある」(翻訳:編集部)
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